幸運の『世界最古のブドウの木』に会える街、マリボル(スロベニア・ワイン文化の聖地)

世界最古のブドウの木『スタラ・トルタ』

 

みなさん、こんにちは!クロアチア在住ガイドのまみです。

 

突然ですが、みなさんは『マリボル(Maribor)』というスロベニアの街をご存知でしょうか?

 

日本語での情報がかなり少ない街のため、「知らない」「聞いたことがない」「どんな街なのかまったく想像がつかない」という方がほとんどだと思います。

 

中世の街並みが残るマリボル旧市街

 

スロベニア=オーストリアの国境近くに位置するマリボルは古き良きヨーロッパの雰囲気が漂う小さな街

 

 

私が住む(スロベニア)隣国クロアチアの首都ザグレブからは車で約1時間半と近いため、私自身もちょこちょこ、気軽な日帰り旅で訪れるお気に入りの街のひとつです。

 

マリボルを流れるドラヴァ川。写真中央右側にスタラ・トルタが映っています。

 

スロベニア第二の都市』でもあるマリボルですが、こぢんまりとしていて、街の観光ハイライトスポットをさっと歩いて回るだけなら1時間半~2時間程度で済ませられるくらい小さな街です。

 

そぞろ歩きが楽しいマリボルですが、この街を訪れたらぜひ訪れていただきたいのが『世界最古のブドウの木』。

 

スロベニアを代表するランドマークでもあるスタラ・トルタ

 

その木の名前は「スタラ・トルタ(Stara trta)」。現地の言葉(スロベニア語)で「古いブドウの木」を意味します。

 

樹齢400年を超えるこの木は、『現在でも果実を実らせ続ける世界最古の貴重なブドウの木』としてギネス記録に登録されています。

 

スタラ・トルタが実らせるのは「ブラウフレンキッシュ(Blaufränkisch)」としても知られる「ジャメトヴカ(Žametovka)」という種類の黒ブドウ。(ブラウフレンキッシュはドイツ語の名前、ジャメトヴカはスロベニア語の名前)

 

マリボル、スロベニアのワイン文化の象徴として愛されています。

 

いくつもの危機を乗り越えた幸運の木

 

今から遡ること400年以上も前のある日。

 

ここにあった民家(ヴォヤシュニシュカ通り 8 番地)の前にブドウの木が植えられました。(マリボルの地域公文書館に残る記録によると、この民家は 16 世紀に建てられたと記されています)

 

時はマリボルにとっての暗黒時代。火災や疫病(ペスト)、そしてハンガリー軍やオスマン帝国軍による包囲戦など、度重なる苦難がマリボルを襲いますが、のちに「スタラ・トルタ」と呼ばれるブドウの木はすくすくと成長を続けました。

 

当時、木造の屋根や藁葺の民家が多かっため火災が頻繁に発生し、実際、スタラ・トルタが生える民家自体も何度か(部分的に)火事に遭いましたが、木は生き残り続けました。

 

ここまでの話を聞いただけでも「なんとも幸運なブドウの木だ・・・!」と驚いてしまいますが、木が乗り越えてきた困難はこれだけではありません。

 

マリボル旧市街の街並み

 

1870年頃になるとブドウの木を侵す恐ろしい病「フィロキセラ(※)」がヨーロッパに蔓延。フィロキセラはスロベニアもやってきました。

 

(※フィロキセラは「ブドウネアブラムシ」という体長1~2mmほどの小さな昆虫がブドウの根や葉に寄生し、樹液を吸って成長しブドウを枯死させてしまう病気。このときフィロキセラはヨーロッパ中のブドウ畑の3分の1を枯死させるという甚大な被害をもたらしました。

 

フィロキセラは主にブドウの木の根に寄生し土の中に生息するため、殺虫剤で駆除することができず、対策が難航したのです。)

 

スロベニアでも多くのブドウの木がフィロキセラの犠牲となる中、近くを流れるドラヴァ川の砂利の奥深くに根を張っていたスタラ・トルタはブドウネアブラムシに侵されることなく生き延びることができました。

 

 

そして時が流れ、第二次世界大戦中・・・連合国軍による砲撃でこの民家のファサードの一部が破壊された時も、スタラ・トルタは生き残りました。

 

しかし、そんな木に更なる試練が訪れます。

 

1963年に民家の前を流れるドラヴァ川にダムが建設されて以降、川の水位が上昇してしまった影響で、長年スタラ・トルタを支えてきた根系のバランスが崩れ、木がゆっくりと枯れ始めたのです。

 

状況はどんどん悪くなる一方で、ついに命運も尽きたかのように思われましたが、さすが幸運なるスタラ・トルタ!

 

修復前の民家の様子を捉えた写真

 

農業研究所の専門家グループの注目を集めたスタラ・トルタは、老朽化した民家の取り壊しに伴う撤去を免れることに成功しました。

 

専門家グループは壊死してしまった部分を取り除く処置を行い、スタラ・トルタの活性化に全力を注ぎました。

 

人々の期待に応えるかのように生命力を取り戻したスタラ・トルタ。

 

1982 年には民家の修復と周囲の舗装作業も行われ、今もなお同じ場所に佇んでいます。

 

ギネス世界記録にも認定されたスタラ・トルタ

 

そして2004年には『世界最古のブドウの木』としてギネス世界記録に登録され、スロベニアを代表するランドマークのひとつとして人々に愛されています。

 

スタラ・トルタが生えている民家は現在は『オールド・ヴァイン・ハウス(※)』と呼ばれ、世界最古のブドウの木やスロベニア・ワインに興味がある人々に親しまれる施設となっています。((※)スロベニア語では「古いブドウの木の家」を意味する“Hiša Stare trte”と呼ばれています)

 

『世界最古のブドウの木』から作られるワイン

8月上旬のスタラ・トルタの様子。実が成熟しはじめていました。

 

ところで、今も現役で毎年35~55㎏の果実を実らせるスタラ・トルタ。

 

この木が実らせるブドウ「ジャメトヴカ」の果皮には色素があまり多く含まれていないため、ワインの色は薄く明るい赤色をしています。

 

「世界最古のブドウの木」から作られるワインはステンレス製の樽で熟成され、スロベニアの有名工業デザイナー・芸術家であるオスカー・アンドレイ・コゴイ(Oskar Andrej Kogoj)がデザインした美しい小瓶(250ml)に詰められます((↓) 下の写真の小瓶です)

 

なお、ステンレス製の樽で熟成させるのは、スタラ・トルタの果実の香り、味わいを存分に味わうためなのだとか。

 

スタラ・トルタのワイン・ボトル(小瓶)

 

毎年生産されるスタラ・トルタのワイン・ボトル(小瓶)はわずか100本

 

大変貴重なワインのため、スロべニアのプロトコール・ギフト(国際儀礼の場での贈り物)として活用されています。

 

これまでボトルが贈られた著名人は、元米国大統領ビル・クリントン、ロシアのプーチン大統領、エリザベス女王、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世、教皇ベネディクト16世、ダライ・ラマ法王の他、ハリウッド俳優のブラッド・ピットなどなど・・・名だたる顔ぶれ!そして日本の上皇陛下にも献上されたそうです。

 

幾度となく幸運に恵まれたスタラ・トルタの果実から作られたワイン・・・飲むだけでなんだか運気がUPしそうですね!

 

オールド・ヴァイン・ハウス内にはワイン・ショップコーナーもあり、ワイン・テイスティング・メニューも揃っています

 

前述のようにスタラ・トルタから作られたプロトコール・ギフトのため、残念ながら非売品。入手困難ですが、オールド・ヴァイン・ハウスではスロヴェニア・ワインのテイスティング・メニューも提供されています。

 

(⇒ オールド・ヴァイン・ハウス公式HP、ワイン・テイスティング・メニュー一覧はこちら(英語)

 

オールド・ヴァイン・ハウスの前にはドラヴァ川を望むテラス席が用意されていて、『世界最古のブドウの木』を眺めながらワインを楽しむことができます。

 

木の周りは柵で厳重に囲まれており触れることはできませんが、近くにいるだけでなんだか溢れる生命力や強運を分けてもらえるような気分になれるかも・・・?!

 

ドラヴァ川の畔で世界最古のブドウの木を眺めつつ、おいしいワインをのんびりと味わえるなんて、最高の旅の思い出になることでしょう♬

 

マリボルをご訪問される際はぜひお立ち寄りください!

 

(2023年8月27日公開 小坂井真美

 

【オールド・ヴァイン・ハウス(Hiša Stare trte)情報】

公式HP(英語):https://www.staratrta.si/en/

住所:Vojašniška ulica 8, 2000 Maribor

 電話番号:+386 2 25 15 100

 +386 51 335 521

メールアドレス: stara-trta@maribor.si

 

<営業時間>

月~水:10:00~18:00

木~土:10:00~20:00

日曜・祝日:10:00~16:00

(※例外的に営業時間が変わる日もあるので、訪問を予定されている方は施設に直接コンタクトを取って事前に確認されることをおすすめします)

 

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